そこに神はいない

梅雨の湿った足音がニチャニチャと聞こえて参ります昨今,皆様にはますますご健勝のことと存じます。大阪出張所の田坂でございます。

世の中には,「合コン」なるイベントがあるやに側聞いたしますところですが,奥手の地味キャラにて,無味無臭の学生時代を過ごした当職といたしましては,それはさながら,パラレルワールドでのSF的出来事のように思えます。

これは当職がまだ,奇跡を信じていたお年頃のみぎり,友人からきいた話しでございます。

彼女は,コンパの盛り上がりが徐々に「その次」へのステージチェンジを指向しはじめた頃合いで,向かいに座った男性の上着のそでに「ほつれ」が生じていることを発見し,「直してあげる」などと申し出て,存分に女子力アピールをした武勇伝を,嬉々として語ってくれたものでした。

実経験は乏しくとも,シミュレーションは十分に重ねていた当職といたしましては,上着を脱がせてからのお楽しみこそ,大人の醍醐味である旨,承知しておりましたもので,それからのハーレクイン展開を生唾を飲み込みながら期待を致しておりました。

しかしどうでしょう。

彼女が言うには,「そのままでいいから,そで,こっちに出して」などと甘い声でささやいた,とのことではありませんか。

諸君!戦争は,書籍の中の出来事ではない!

女神の微笑みをたたえ,そっと差し出された袖に,近づく二人の距離。

彼女のたおやかな所作。

やがて,

パチン,パチンとホチキスで留められていく「そで」。

「これがそのときのホチキスでな,服にはいちばん向いてるから,まだ使ってるねん。」だそうでございます。

堕天した神に悪意はなく,ただかくにようにして,ホチキスを打ち鳴らすのでありました。

以上,取り急ぎ,失礼いたします。