胃カメラ・ドリンコ

こんなことになるとは、思ってもいませんでした。

田坂が社内検診にてγGTPの高値を指摘されるようになってから、3年近くになります。
こう見えて田坂、お酒は飲めない人でして、オールバックとヒゲのイメージに合わないなどと残念がられることも少なくありません。
もっとも、プロフィール画像は、歴史上の人物からどれかを選ぼう的チョイスで、足利義満に競り勝ったがための大久保利通であり、実際の田坂は、オールバックでもなければヒゲでもありません。まあ、デビュー当時の髭男爵だって、ヒゲでも男爵でもなかったそうですから、芸能界ではよくあることです。ちなみに田坂、今のところ、芸能人でもありません。

なんの話しでしたでしょうか?ワンセンテンスで言えば、「Where're we?」ですね。そうそう、γGTPです。

そのような次第で、田坂はいよいよ、「要・精密検査」となったわけで、去る2月にCTスキャンとエコー検査を経由いたしました。職場からは、「おまえは薬の飲み過ぎだ」などといわれるほど、田坂は風邪薬や頭痛薬などとチュッチュな仲なので、おそらく肝臓的に何か問題があろうと覚悟はしておりました。短く儚い一生であったなあ。美人薄命ってやつかなあ。そもそも美人じゃないけどなあ。などと、色々なことを考えながら、CTスキャンとエコー検査を受けた結果、田坂の数値を上げている原因は「胆石」であることが判明しました。「石の上にも3年」という言葉がありますが、「胆嚢の中にも3年」だったわけです。

「胆石」というと、なんだか不摂生の象徴のようで甚だ不本意なので、以後は「賢者の石」と隠語を用いて表現しますが、それほどまだ大きくないということで、「経過観察」という名目で放置することとなりました。いずれ、田坂の胆汁で大きく育った「賢者の石」は、錬金術師の力を増大することに一役かうことになるのでしょう。

ところで、胆汁の流れが悪くなると、γGTPが高値になることがあるらしいのですが、稀にその出口に腫瘍ができていることもあるらしく、検査をしておくのにこしたことはないというのがお医者様のご意見でした。そうであれば、受けておきましょうか、と軽くうけおったのが、今回の検査でありまして、かの有名な「胃カメラ検査」です。「検査、しておきますか?」「はい、お願いします。」「じゃあ、胃カメラの予約をとりますんで。」という流れで、「どういう検査」なのかを後出しにするというのは、さすがはお医者様の知恵です。

さて、そのような次第で、田坂は胃カメラをのむことになったわけでございますが、これから先は、もし皆さまが初めての検査にドキドキしておられるのであれば、夢と希望に満ちた明日を迎えて頂くことの手がかりになればと思い、記憶が鮮明なうちに記録に残しておくものです。

■前日までの準備
 胃カメラ検査で大切なことの一つは、「前の日に食べたいものは食べておくこと」です。
 午後9時をこえれば、検査が終わるまで食べてはいけない、水を与えてもいけない、扱いはまるでグレムリンなわけですので、特に昼ご飯どきまでに、しっかり食べておくことが肝要なのです。ちなみに田坂が食べたいチョイスをしたのは、「プリン大福」でした。文句は、食べてからにしてもらおうじゃないか。

■出発前の準備
 当日の朝は、コップ一杯程度の水であれば、飲んでもかまいません。田坂はマニュアルには忠実なので、毎朝の100%濃縮還元りんごジュースではなく、きちんと水にしました。しかも、毎朝のマグカップではなく、きちんとコップで飲んでます。
 それとタオル。比較的大きめのタオルを持参するように、との病院からの指示です。このあたりから、不穏な空気をビシビシと感じるわけです。「なんだ、このプレッシャーは?!」というわけですね。やはり田坂は、ニュータイプなのかもしれません。

■検査直前の準備
 さて、いよいよ本番なわけですが、その前に、「何か」を2種類ほど飲ませて頂きました。

 1つ目は、「胃をキレイにする」何か。ゴクリと飲める液体ですが、こういうものに「うまいものなし」なことは知っています。舌に乗せずに「のど」へ流し込むのがコツ。理屈は知っている。まあ何ごとも、理屈どおりにはいかないものです。自慢じゃないですが田坂、どんなに説明されても、そのとおりに身体を動かすのが苦手なタイプで、体育のセンスはダンゴムシなみにありません。

 このあたりで、不穏な空気を「におい」つきで感じるようになります。

 2つ目は、「ゼリー状」の何か。看護士さん(後ろで髪をひとつくくり。留め具は茶色のリボンバレッタ。嫌いじゃないぜ、そういうの。)のご説明では、「のどの麻酔」をする薬とのことで、事前知識を豊富に仕入れていた田坂は、ここの準備が大切なことがわかっていました。
 どうやら胃カメラの難所はこの「のど」の通過らしく、ここをしっかり麻酔をしておかなければ、きっと苦しいに違いない、逆にここさえうまくやれれば、絶対に大丈夫、そういう算段だったわけです。しかも、「左側を下に寝てください」との指示でしたもので、田坂はできるだけ、「のどの左側」にゼリーが流れていくよう、すこし左に傾き加減になるなど、かなりの小技を効かせてりして。このあたりの細かい観察力、「名探偵コナン」を読み続けてきたからこその能力です。
 所要時間、だいたい5分。舌の感覚がなくなって、「おおっ、これなら麻酔されてんで!絶対大丈夫や!」みたいに思うのですが、「のど」の感覚はきちんと残っているのです。「唾液」だってちゃんと飲めます。おかしい。確実に「ゼリー状」の何かは残っていないのに。

 このあたりで、不穏な空気はもはや「確信」に変わります。

■いよいよ検査
 なんだかダメっぽい気持ちにどんどんテンションを下げながら、いよいよ検査室に入ります。「胃の動きをおさえる」らしい筋肉注射をするとのことで、「どっちかの肩を出してください」といわれるがままに、左肩にぶすり。痛い。筋肉注射、痛い。しかも、さっき「左側を下に寝てください」といわれていたはずなのに、左肩にぶすりですから、横になるときにまた痛い。おかしい。まだ検査前だというのに、もう痛い。なんだこれ、近ごろは「名探偵コナン」よりも先に「絶対可憐チルドレン」を読んでいるから勘が鈍ったのか?

 そうして台に寝転がされて、マウスピースを固定。これは口の先っぽだけなので、なんてことはありません。ノドまで届くものを想像していたので、一安心。アンラッキーを吹き飛ばしたか。さあこい、どっからでも入れてこい。できれば鼻から。あ、口からですか。ですよね、マウスピースしてますもんね。

 そして挿管。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 痛ぇよ!ていうか、それ以上入れたら、なんか破れるよ!何かわからないけど、なんかノドのところに、見えないATフィールドがあって、力尽くで破ろうとしてるとか、そういうイメージ?

 「セキしたら苦しいですよ!鼻から、鼻から息をして!力ぬいて!」など、ご指示のご趣旨はご理解できます。最後の「ご」は文法的に間違ってますね。いや、そうじゃない。これは大脳じゃなくて、脊髄やら小脳やらが、命の危険を感じて反射してるので、どうにかしようと思ってどうにかなるもんじゃないです。もう、外科医モノのドラマで血まみれの救急患者がストレッチャー上でのたうち回っているシーン、その救急患者が田坂。たかが胃カメラ検査なのに、救急患者状態。看護士さんは、背中をさする役なのに、田坂を押さえています。

 「はい、一番苦しいところは過ぎましたよ!」気休めだ。気休め以外の何ものでもない。ノドもとすぎて忘れるのは、熱さだけで、胃カメラ感は増すばかり。さらに胃に空気挿入とかで空腹が空気腹へと膨張していくので、苦痛は増すばかりです。

 「うまく撮影できてますからね!大丈夫ですからね!」ったりめーだ!これで「ごめん、フィルム入ってなかったわ」みたいなことになったら、どんだけ飲み損だってことですよ。

 「今から空気抜きます。もうすぐ終わります。」後に続かれる方は、お医者様からのこの発言を希望の一言として記憶されるのがよろしかろうと存じます。そこから先、かなり「ぎゅーっ!」と力いれてカメラが抜かれていくのがわかりますが、出すなら、内臓と共同作業。それはもうスムーズなもんです。あれだけ苦しかったのがウソのように終わります。

■その後
 すべてが終わり、田坂の目は真っ赤。下にしいたタオルがほんのり湿っていましたが、これは唾液というより、きっと涙。麻酔とかが切れるまで、2時間程度かかるようなので、クルマの運転はもとより、「重要な判断」もしてはならんとのことです。

 そんなに「きつい」麻酔なのに、なんでこんなになんのさ。

 田坂は極度のストレスのあまり、偏頭痛をおこしました。検査から6時間になりますが、完全に麻酔が切れて、風邪をひいたときのようなノドの痛みに思い出をかみしめています。

 よく胃カメラは「おえっとなる」とかいう人がいらっしゃいますが、正直、「そんなもんじゃありません」です。「ぐほえっがはっぐげがふっ」でもまだ足りないぐらいです。

 これで胃カメラ検査なんて、もう怖くないですよね。ググってこちらへたどりつかれた方がいらっしゃいましたら、まあ、検査なんて個人差がありますので、どんまいです。落ち込んだりもしたけれど、田坂は、生きてます。